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スポーツは教えてくれる

Vol.34 スポーツを豊かに楽しむためには、スポーツ以外の趣味(興味)を持つことも必要!
映画や小説や演劇……のなかから、音楽とフィギュアスケートの関係を考えてみよう
FORUM8 presents TAMAKIのスポーツジャーナリズム

過去にも、京都龍谷大学や日本福祉大学、筑波大学や静岡文化芸術大学、それに一橋大学や立教大学や国士誌大学と、その大学院などで教壇に立ったことはある。が、コロナ禍で中断して以来、久し振りに再び教鞭を執ることになった。

今回は小生個人への依頼ではなく、本誌の発行人(株)フォーラムエイトさんにもチャンネルパートナーとしてスポンサードしてもらっているYouTube番組"TAMAKIのスポーツジャーナリズム"の代表として教壇に立つことになったので、これまで以上に身の引き締まる思いがしている。

授業の内容は、「スポーツの学び方」、「スポーツの見方(何を見るべきか?)」、「インタビューの仕方」、「原稿の書き方」といった方法論から「スポーツとは何か?」、「ジャーナリズムとは何か?」、「日本のスポーツジャーナリズムの歴史」などのスポーツやジャーナリズムの本質論まで、15回の授業内容は多岐に及ぶ。

が、そのなかでスポーツとはまったく無関係と思われる「サブ能力(趣味)の活用」という授業を1回だけ設けている。

それはスポーツ以外の自分の好きなことを大いに生かすべし、という授業で、どんなことでもかまわない—将棋でも囲碁でも麻雀でもゲームでも、映画なら恋愛映画でもSF映画でも、小説なら恋愛小説でもミステリーでも歴史小説でも、音楽ならロックでもレゲエでもジャズでも……、とにかく自分の趣味を「スポーツジャーナリズム」に生かそうという授業だ。

その一例として紹介したいのが、音楽とオペラ。小生は小学生の頃から、音楽大学のピアノ科を卒業した叔父にクラシック音楽を何度も聴かされたり、生まれ育った場所が京都の祇園町で南座のすぐ近くだったため、幼稚園に通う頃から歌舞伎を見に連れて行かれたりしたため、いつの間にかクラシック音楽だけでなく、"音楽+芝居"のオペラが大好きになってしまった。

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そのため今年のミラノ・コルチナ冬季オリンピックの開会式に、イタリア・オペラの大作曲家のロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニが、頭デッカチの着ぐるみ人形で登場したのには大喜び。

日本でオペラと言えば、何やら高級で高尚な敷居の高い芸術のように思われているが、ドラマの内容は男と女の惚れた腫れたの恋物語が9割以上。それも不倫や三角関係、密会や略奪愛、嫉妬の物語……など、禁断の恋がほとんど。

つまり大の大人の極めて人間的な物語ばかりで、その作曲家は学校の音楽教室に厳つい顔の肖像として飾られるより、頭デッカチの着ぐるみ人形のほうがお似合いなのだ。だから、さすがはオペラの本場のイタリア人のセンスだなと感心した。

閉会式にも、ロッシーニのオペラ「セビリャの理髪師」に登場する床屋のフィガロや、ヴェルディのオペラ「リゴレット」(♪風の中の羽根のように、いつも変わる女心…で有名な歌の出てくるオペラです)の主人公や、プッチーニの「蝶々夫人」、「トゥーランドット」が登場したことにも大興奮。

そういえばトゥーランドットの音楽は、2006年トリノ冬季五輪でのフィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得した荒川静香さんが用いた音楽。

氷のように冷たい心のお姫様だったトゥーランドット姫が、異国の王子カラフの愛に目覚め、素晴らしい女性に生まれ変わり結ばれるというドラマを、荒川静香さんは美事に演じたのだった。

同じ音楽を使って(編曲は違うが)今年のミラノでも鍵山優真さんが銀メダルに輝いた。が、トゥーランドットの音楽はやはり王子(男性)の心に動かされる女性(トゥーランドット姫)の心を表してるようでもあり、少々無理があったかな、とも思われた。

その点、音楽とスケーティングがバッチリ100%合っていたのは、女子シングル・ショートプログラムで、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『道/ラ・ストラーダ』の音楽を使って最高点をあげた中井亜美さんだった。

名優アンソニー・クインが演じた傲慢で暴力的で無骨な大道芸人に、黙って付き従う純粋な心の持ち主ジェルソミーナを名女優ジュリエッタ・マシーナが演じた映画の美しい音楽(ニーノ・ロータ作曲)にのって、中井亜美さんはその純粋無垢の少女を美事に表現したのだった(ニーノ・ロータは、イタリア現代音楽の作曲家でアランドロン主演の映画『太陽がいっぱい』や、映画『ゴッドファーザー』のテーマの作曲家としても有名です)。

中井亜美さんは、フリーの演技で使った音楽「この素晴らしき世界 What a wonderful world」で滑った演技も素晴らしく、銅メダルを獲得。しかし歌は女性歌手でなく、有名なトランペッターのルイ・アームストロングの魅力的な濁声を使ってほしかった……とも思った。

そんななかで最も素晴らしいスケーティングと音楽のコラボレーションを示してくれたのは、坂本花織のフリーの演技とシャンソン「愛の賛歌」だった。

じつはこの音楽、テレビ中継では「愛の賛歌」とだけ紹介されたが、シャンソンが3曲流れて、最後が「水に流して」だった。このタイトルは素晴らしい作詞家の岩谷時子さんの名訳だが、元のフランス語の歌詞は「Je ne regret rien」で、直訳すると「私は絶対に後悔しない」。

「愛の賛歌」と同じエディット・ピアフが最後に大ヒットさせたシャンソンで、娼婦の家に生まれ育ち、お針子として貧困生活を味わった末に歌手として大成功。しかし失恋や結婚生活の破局から薬や酒に溺れた数奇な人生の最後に、大歌手として大劇場で復活したときに「私は後悔しない」と歌った名曲なのだ。

そんな歌を、オリンピックの前に引退を宣言していた坂本花織さんが選んだのだ。

残念ながら坂本さんは、わずかなミスから金メダルを逃し、銀メダルに終わったが、彼女が、「水に流して(私は後悔しない)」を最後に選んだことを解説で触れたのが、元フィギュアスケーターの町田樹さん一人だけだったのは少々残念だった。

スポーツジャーナリズムにおける「サブ能力(趣味)の活用」という話題が、フィギュアスケート(スポーツ)と音楽(趣味)だけの話になってしまったが、音楽以外にも、もっとスポーツを豊かに楽しむツールはあるはずだ。

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FORUM8 presents TAMAKIのスポーツジャーナリズム

スポーツ応援企業 FORUM8
勝敗を超えて。スポーツの本質を語る番組を応援!

FORUM8は、本誌連載「スポーツは教えてくれる」で取り上げてきたテーマをさらに深め、批評精神を大切にスポーツを語る配信番組「FORUM8 presents TAMAKIのスポーツジャーナリズム」を応援しています。いま求められている、確かな視点と愛あるスポーツ言論をお届けしています。番組はコメンテイター玉木正之さん、スポーツジャーナリスト小崎仁久さんが番組を進行し、作家や文化人、アスリートなど多彩なゲストを迎えて、勝敗や成績だけでは語れないスポーツの魅力に迫ります。

YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@MTSportsJournalism
玉木正之公式WEBサイト:https://tamakimasayuki.com/
Xアカウント:https://x.com/TAMAKIS_SJ

熱狂の裏側を探る

オリンピック、WBC、サッカーワールドカップ、大相撲などの話題を “一歩早く” 取り上げてくれるYouTubeチャンネル。観戦前の予習に最適で、タイムリーな問題提起はどこよりも詳しい。「そこまで踏み込むの!」そこが大きな魅力です。

大規模イベントが続く今、華やかな盛り上がりの裏で、商業主義やメディアの過熱報道が強くなりすぎていないか、本来のスポーツの楽しさが置き去りになっていないかを問いかけます。

大谷翔平選手のホームランボールの価格験動や、WBCで優勝しても野球少年が減り続ける現状を例に、スポーツが生活から遠ざかっていく怖さをわかりやすく示し、日常の中に根付く「スポーツ文化」を育てる必要性について考えます。

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野球では、日本プロ野球選手会の40年をたどり選手の権利や働く環境がどう整えられてきたのか。またMLBのビジネスモデルにも目を向け、日本野球が “MLBの下部組織” のようにならないための視点を提示。

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サッカーの話題では、2026年ワールドカップを見据え、日本代表の戦い方を相手の分析や気候条件まで含めて立体的に考察。日本国内では地元サポーター文化が根付き盛り上がる一方で、一般のファンが増えないという現状も。競技を広げるには「見える・参加できる」導線が欠かせないことが見えてきます。

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大相撲は、新世代の台頭や「白鵬杯」を通じた国際化などを取り上げ、伝統文化としての魅力と、未来へ広がる可能性について議論し、強さだけでなく、相撲が文化としてどう続いていくか、世界とどうつながっていくかまで話題が広がります。

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スポーツをもっと身近に

地上波で見られないスポーツが増え、「簡単に見られない=一般の人が楽しめない」状況が、ファンの裾野や子どもの競技人口にも影響している。

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さらに、ちょっとヒリヒリしたテーマも真正面から向き合います。スポーツベッティングのように賛否が分かれる話題は、「良い/悪い」で片づけずに、世界ではどう使われ、どんな仕組みでスポーツを支えているのかを整理。

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戦時下のスポーツから映像論、プロ野球労組の舞台裏まで。
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新春特別企画「TAMAKIのスポーツジャーナリズム2026年、新年の御挨拶」
本誌Up&Coming152号を紹介いただきました!

 

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