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健康経営 Health and Productivity

Vol.33 物質使用症を知っていますか

ビュシス総合医療クリニック院長、心療内科医
フォーラムエイト ヘルス・メンタルアドバイザー(産業医)
板村 論子(いたむら ろんこ)

profile
 

関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了。マウントシナイ医科大学留学。東京慈恵会医科大学助手、帯津三敬塾クリニック院長を経て現在、ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人未来工学研究所研究参与、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本医師会認定産業医。日本統合医療学会業務執行理事・認定医。日本メディカルホメオパシー学会専務理事・専門医。Institute for Mindfulness-Based Approaches認定MBSR講師。全米ヨガアライアンス認定RYT500。
『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


今回は「物質使用症」について紹介します。

物質使用症は特定の物質を繰り返し使用することで、心身や生活に問題が生じているにもかかわらず使用をやめられなくなる状態を指します。以前は「依存症」や「中毒」と呼ばれていましたが、現在は診断名として「物質使用症(Substance Use Disorder)」が使われています。

物質使用症

米国のDSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアルでは、過去12か月間に、図1に示す11項目のうち2項目があてはまる状態としています。軽度は2~3項目、中等度:4~5項目、重度:6項目以上。

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原因となる薬物は図2に示しています。私たちの身近にある薬物といえば、アルコールとカフェインですが、別の意味では処方薬や市販薬などの医薬品も身近な薬物と言えます。

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最近では、特にコロナ禍以降、市販薬の乱用や依存の問題が注目されています。

図3は2022年に国立精神・神経医療研究センターが公表した病院調査によれば、直近1年以内に薬物使用がみられた患者の主な乱用薬物として、睡眠薬や抗不安薬などの処方薬および市販薬が約半数を占めていました。特に日本では30~40代女性に睡眠薬・抗不安薬への依存が多いと指摘されています。

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注意が必要なスイッチOTC

スイッチOTC(Over The Counter)とは、もともと医療用医薬品であった成分が安全性確認後に市販薬として販売されるようになったものです。セルフメディケーションの推進に寄与する一方で、乱用や依存のリスクも指摘されています。

主な例は、

  • デキストロメトルファン(咳止め):大量摂取で多幸感、解離、幻覚を生じる可能性がある。抗うつ薬との併用ではセロトニン症候群の危険がある。
  • コデイン含有鎮咳・鎮痛薬:呼吸抑制や依存形成のリスクがある。
  • 抗ヒスタミン系睡眠改善薬(ジフェンヒドラミン等):耐性が形成されることがある。大量摂取でせん妄や不整脈の危険がある。
  • カフェイン含有鎮痛薬:カフェイン依存や離脱頭痛を生じる。
  • 刺激性下剤(センナ、ビサコジル等):長期乱用で腸機能低下や電解質異常を招く。

これらは用法・用量を守れば有効で安全に使用できますが、目的外使用や長期連用により物質使用症につながる可能性があり、注意が必要です。

早期発見と支援の重要性

物質使用症では、「自分の意志ではやめられない状態」に陥ります。まず自分がその状態にあることに気づくことが大切です。

また、単なる意志の弱さとして捉えるのではなく、医学的支援が必要な疾患として理解することが重要です。支援には、専門家による治療、自助グループの活用、社会的支援などが含まれます。さらに、家族への支援も重要です。

その一つにCRAFT(Community Reinforcement and Family Training)があります。CRAFTは、依存症の本人を無理に説得するのではなく、家族が適切な関わり方を学ぶことで、本人が治療につながる可能性を高める支援方法です。

物質使用症は、身近な薬物で、誰にでも起こり得る問題です。正しい知識を持ち、早めに気づくことが大切だと思います。

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