東洋大学は1887年、哲学専修の私立哲学館として創立。以来、139年の歴史を誇る同校が現行の校名に改称したのは1920年。新制大学に移行した(1949年)当初、文学部からスタートした同校はその後、段階的に組織を再編・拡張。現在は文学、経済学、経営学、法学、社会学、国際学、国際観光学、情報連携学、福祉社会デザイン学、健康スポーツ科学、理工学、総合情報学、生命科学および食環境科学の14学部により構成。さらに、第2部・イブニングコース、15大学院研究科を設置。大学・大学院・通信教育部を合わせて3万2千人超の学生に対し、820人超の教員を擁し、白山、赤羽台、川越、朝霧、板倉および総合スポーツセンターの6キャンパスを配置しています(数字は2025年5月現在)。
今回お話を伺った鈴木崇伸教授が所属する理工学部は川越キャンパスを拠点とし、機械工学、電気電子情報工学、応用化学、都市環境デザイン学および建築学の5学科により構成。そのうち都市環境デザイン学科は、建設技術についての理解を基礎に、自然と調和し、人々が安全かつ快適に暮らせる都市システムを実現するスペシャリストの養成をターゲットに設定。その具体化に当たり、1)人工物の材料・設計・メンテナンスにについて学ぶ「都市創造コース」、2)都市環境の基本要素を学ぶ「都市環境コース」、および3)地域行政や地域文化、国際建設マネジメントを学ぶ「都市経営コース」――の3つのモデルコースが2年次から用意されているのが特徴です。

社会基盤の防災研究にフォーカス、学生指導で独自アプローチ
都市環境デザイン学科に11研究室(2025年度時点)が置かれたうち、「防災システム研究室」は都市を様々なシステムが組み合わされた空間と捉えた上で、特にその社会基盤の面に注目。地震や水害などによる被害分析と防災対策の研究に取り組んできています。
同研究室には例年、10人程度の学部生が配属され、そのうち一人くらいの割合で大学院生も在籍。後期は3・4年生合わせて約20人の学生により組織されています。
近年の就職活動早期化を背景に、同学科では3年生を毎年10月に各研究室へ仮配属。例えば同研究室では、3年生は最初の半年間(10月~翌年3月)は研究の流儀を習得する期間と位置づけ。文献調査に加え、解析ソフトなど研究室が保有する研究リソースに触れながら、それぞれが自らの興味を基に研究構想を作成。卒着(卒業着手)単位の取得に問題がなく4年生への進級が決まると、学生は過去の論文や研究動向などを参考に自身の研究構想を整理・再検討。4年生の4月からは卒論作成に着手し、前期末に中間報告。後期に入ると卒論の最終取りまとめに向けた準備を進めていき、2月に全研究室の教員および学生が参加する最終的な研究発表会が開催されます。
同研究室では学生の研究テーマ設定に当たり、まず鈴木教授が参考となるトピックスを提案。例えば、1)2024年度は同年1月に発生した能登半島地震を受け、2023年10月に仮配属された3年生の研究(卒論発表は2025年2月)向けに、教授自らが数次にわたる現地調査で取得した石川・富山・新潟各県のデータに基づく地震動や地盤の分析、液状化、2)翌2025年度(2024年10月に仮配属された3年生向け)は東日本大震災(2011年)で埼玉県内にも大きな被害が見られたことを踏まえ、県東部の低平地における地盤データの収集・分析、そのほか3)教授が学外の研究活動で関わる電柱地中化や水管橋、上下水道の課題――について紹介。学生らはそれらを考慮しつつ研究テーマを絞り込んでいきます。
一方、同研究室独自のアプローチとして、鈴木教授は振動計を用いた構造物の実測と、解析ソフトで得られた計算結果との比較・検証に触れます。ソフトを使えば「計算結果が簡単に出てくるのは承知しているけれど、あまり信じていないのです。計算なので」といい、実際の構造物がどう振動しているかを計測し知った上で計算と合っているか、を重視。研究室では簡易振動計と高性能微動計の2種を備え、前者は基本的な構造物の振動実測と計算との比較向けに、後者は微細な計測が求められる研究論文や地盤の振動計測向けに、使い分け。特に構造物の劣化などを判定するには計算だけでは限界があり、高性能な振動計との併用で「変な振動」の発見に繋がり、有用な情報を得られるのでは、との期待を述べます。



講義・研究用に各種当社ソフトを活用、現在メインはEngineer’s Studio®
1993年に防災システム研究室を開設した鈴木教授がフォーラムエイトのソフトウェアを初めて導入したのは、2000年頃に遡ります。当時自身が担当していた構造力学の講義の発展形として構造設計の演習向けに、任意形平面骨組解析プログラム「FRAME(面内)」を購入。併せて、研究室における水管橋や2000年代に続いた地震による損傷が顕在化していた新幹線の高架橋に関する振動解析の研究向けに、3次元骨組の静的/動的非線形解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」(Engineer’s Studio®の前身)を導入しています。
その後は学生らの研究テーマに即した計算ニーズを受けて、1)構造物の損傷などを評価するためRC構造の2次元動的非線形解析「UC-win/WCOMD」(WCOMD Studioの前身)、2)液状化に関連し電柱の沈下やマンホールの浮上、間隙水圧上昇の分析などを行うための「地盤の動的有効応力解析(UWLC®)」、3)地震後の地盤の大変形の計算用にFEMによる地盤の弾塑性解析「GeoFEAS®」――などを逐次導入しています。
同研究室において現在メインで使われているのが、冒頭でも触れたEngineer’s Studio®(ES)。基本的には学部生がESを使い解析して得た計算結果と、振動計による計測結果とを比較・検証。その整合性を確認するような活用のウェートが高いのが現状です。対外的に発表する論文向け使用には、計算結果のチェック・再計算を複数回重ね、さらに議論を経ることが通常。
関連分野の勉強に割く時間も考えればESを「最低でも1年くらいは使い込まないと、学生自ら計算結果を解説できるようにならない」のでは、と鈴木教授は述べます。実際、同研究室では水管橋(斜橋)などに関する自らの卒業論文の内容を大学院生として発展的に研究するケースが多いといいます。

震災による都市ライフラインの被害発生を踏まえ沈下や傾斜を防止する対策を検討
新たな研究展開とES活用、ソフト使用で求められる計算結果の説明力
「最近は水管橋の劣化の問題に興味を持って研究しています」2021年10月に和歌山市の紀の川に架かる水管橋「六十谷(むそた)水管橋」が崩落。市内の約6万戸で断水する事故が発生。その後の調査により吊り材の腐食と破断が確認され、不十分な点検が原因であった可能性が指摘されました。
そこで鈴木教授は、振動計測と解析技術の組み合わせで現状把握する方法がカギになるのでは、と着想。この間に能登半島地震(2024年)への対応を受けた中断を挟みつつ、研究を継続。2025年度からは土木学会地震工学委員会に「レジリエントな水循環ネットワークの実現に向けた技術の研究小委員会」が発足。その中に「水管橋の点検技術に関する研究」をテーマに冠するWGが設置されたことから、自身もその活動に参加しています。
併せて、近年は上下水道の老朽化・耐震化対策にも注目。まずは上下水道の劣化・耐震性不足の現状を把握し、リスクを見える化するところまで実現したい考え、と言います。
いずれの取り組みでもEngineer's Studio®(ES)を活用。前者ではESで計算した結果の正否や設定すべき計算条件の分析、点検で得られる振動データと振動解析データを用いた劣化予測を、後者では同様な手法により老朽化した水道の更新に向けた経過観察方法の策定を、それぞれ目指しとしています。「設計ソフト類がなければ何もできない時代になってしまっているのですけれど、だからこそその結果が理解できるだけの基本は知らなければいけません」
ソフトを使えば計算結果は簡単に出るとは言え、それを自分の言葉で説明するためにはバックグラウンドとなる知識を持っていることが不可欠。将来的にはAI(人工知能)がその辺も上手に解説してくれるようになるだろうが、そこでもAIが言っていることを理解できるくらいの専門知識は求められる、と教授は説きます。「計算が簡単になったから良いのではなく、簡単に出てくる相当高度な計算結果を理解できる一定の知識は必要ですから、(学生の皆さんには)しっかり勉強して欲しいと思います」
( 執筆:池野隆)





