新連載 Stargazer「星を見る人」

【新連載】 Vol.1 Stargazer「星を見る人」

マサチューセッツ工科大学 (MIT)メディアラボ 石井 裕
Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences

一人旅が私の原点

詩集と国鉄周遊券を手に一人、ユースホステルを巡った日々が、僕の研究の原点です。
己と対峙し、感動を詩で表現しながら旅することで、その体験も深まります。
松尾芭蕉、西脇順三郎、宮沢賢治を始め、多くの旅人たちは旅をしながら詩を書きました。私は一人旅を通して、自分自身と深く対話し、その時感じた感動や思索を、水彩画と詩として表現しようと試みてきました。

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最近ではSNSが人気ですが、Twitter(現在のX)はある意味で現代の詩への新しい表現メディアになっています。たとえば「俳句」のように、短い言葉で自分の感情や考えを伝える。私は2008年から日本大震災で被災した直後からTwitterで発言を通じて思いを伝えており、140字という制約の中で言葉を磨くことは、ある意味で詩作の訓練でもあります。夢の世界ではTwitterが新しいメディアとして浸透しています。文字数が140字に制限されているため、言葉を凝縮して瞬時に思索を伝えることで、詩のような感覚がTwitterにはあるのでしょう。

詩で思いを表現しながら、あるいは風景を水彩スケッチしながら旅をすることで、その体験は深まります。最近の旅は、レジャー目的が主流になりつつありますが、本来の旅は、自分と向き合い、未知の世界と出会う行為です。若い時に、言葉も文化も違う世界を一人で旅し、自分自身と対話する経験は、かけがえのないものになると思います。

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海外雄飛・異文化交流

時代の変化とともに、旅のスタイルも変わってきています。しかし、自分自身と深く向き合う旅の価値は変わりません。私は若い頃、詩集を片手に日本各地や海外を旅しました。旅は、見知らぬ人々と出会い、語り合い、新しい視点を得る場でした。そこでは年齢や職業を超えて交流が生まれ、旅が単なる移動ではなく、人生を豊かにする体験へと変わっていきました。特に欧州をThomas Cook TimetableとEurail Passを手に回った旅は、私の人生の大きな変換点になりました。旅の中で出会う人との対話は、自分自身を映し出す鏡でもあります。異なる価値観や文化に触れることで、自分の立ち位置を見つめ直すことができる。そうした経験が、私の研究にも大きな影響を与えてきました。

日本は便利で快適な社会ですが、だからこそあえて外に出ることが大切です。Comfort(快適)ゾーンにとどまっていては、本当の意味で世界と向き合うことはできません。異なる文化の中に身を置き、違いを受け止め、対話を重ねることが、人としての成長につながります。時間と体力があり、感性が研ぎ澄まされた若い時に、言葉も文化も違う世界を一人旅し、自分と対話すべきです。旅は、単なる移動ではなく、自分自身と向き合い、世界と対話するプロセスです。その体験が、後の人生や研究、創造の原動力になるのです。

同じ旅でも、二人以上の旅と一人旅というのは大きく違います。一人だと、自分と対話するしかないわけです。周りに知らない人がいれば、その人と話をする。たとえば、青森の夜行列車に乗った時はりんごの行商のおばさんがりんごをくださったりとか。方言で内容が聞き取れないこともありましたけど、彼女達との会話というのはこちらが一人でいたからこそあったわけで。そういう意味では己との対話。そして初めて出会う人との対話。その対話の機会を大切にするという意味で、やはり一人で旅をするのが一番いいと僕は思います。

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特にこれからの世代にとっては、若い時の海外雄飛、そして異文化交流が大事だと思います。言葉も通じない、文化も違う。そういう世界に自分を放り込んで自分と対峙する。世界と対峙する。そして友人を見つける。一緒に旅する。そういう経験はお金がなくても、エネルギーと時間のある若い時に絶対すべきだと思います。それが長い人生で一番大切な財産になると僕は思います。

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終わりに

「出会いと別れを繰り返しながら、何故一人旅を続けるのか?」
そう自分に問い続けながら、ユースの旅を続けた青春時代。その答えを、若山牧水のこの詩に見つけた時の喜び、今でも鮮明に覚えています。
「終りたる旅を見かへるさびしさにさそられてまた旅をしぞおもふ」

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■石井 裕氏プロフィール
Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ
1956年東京生まれ。1978年に北海道大学工学部卒業、1980年に同大学院情報工学専攻修士課程修了、日本電信電話公社 (現NTT)入社。ヒューマン・コンピュータ・インターフェース (HCI) とテレプレゼンス技術の研究に従事。1992年に北大から博士号取得。1995年からMITメディアラボにおいて、直接操作・感知可能なインターフェース「タンジブル・ビッツ」の研究、形状と性質をディジタル制御できる新マテリアル「ラディカル・アトムズ」の研究を進める。さらに2025 年に、時間を超えて大切な人との絆を深める「テレアブセンス」ビジョンを発表、現在その具現のための研究を進めている。MITメディアラボ副所長、タンジブルメディアグループ・ディレクター、工学博士。2001年にMITからテニュア(終身在職権)を授与され、2006年にACMSIGCHIよりCHI Academyを受賞。2019 年には、ACM SIGCHI Life Time ResearchAward (生涯研究賞)を受賞。2022年にACM Fellow に選ばれる。

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